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「ていうか詩くん、今日、風邪気味?」
クリーム色の外壁に赤の店舗テントがよく映える、開放的なガラス窓が特徴的なそのケーキ屋の前で、華は今更そう詩を振り返った。
「声嗄れてるよね? 今更だけど、大丈夫?」
「あぁ、うん、気温の変化でちょっと。大丈夫だから、ほら、先どうぞ」
純粋に心配する華の表情に後ろめたさを感じた詩は、誤魔化すようにテントと同じ暗めの赤い扉を開いて彼女を促した。
ガランッと鳴った鈍い鐘の音に招かれるように、華がそろりと足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ」
低い男の声が丁寧に華を出迎え、ぴょこっと頭を下げる彼女の頭の上で団子が揺れる。後に続いて入った詩を、華の輝く瞳が手招いた。
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