第2話 白雪姫ってどんな話

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 師匠が営むこの修復屋は、現実世界で、僕達が【原盤】と呼ぶ、傷ついた本の修復と合わせて、物語内部に入り、【原盤】の物語を元の状態へと修復することが仕事なのだが、修復活動するためには、まず、現実世界と物語の世界の出入り、それから物語内部での活動、修復が完了した最後には、今後、同じようなことが起きないための【原盤】の封印など依頼の都度、相当量の魔力が必要となる。  修復担当の僕とケビンには、こことは異なる世界へ入るための鍵を持つ権利もなければ、鍵が無くても異世界へ移動するための呪式を行うほどの、膨大な魔力も持っていない。  ニルスは現実世界からの僕とケビンのバックアップが担当のため、物語の世界に入ることは滅多にない。  僕が師匠と尊敬してやまない店主ユーグは、異世界を繋ぐ鍵を持ち、僕達を行き来させ、【原盤】に封をすることを、たった1人で行っている。  一つの依頼が終わるごとに、師匠は数日間、長くて1週間近く眠り続けることもあり、僕とケビンの仕事が長引けば長引くだけ、師匠への負担は大きくかかってくる。 「何はともあれ、なるべく早く終わらせて、そちらに戻ります」  ソファに座ったまま、のんびりと紅茶を飲み始めた師匠に、そう伝えれば、『待っているよ』と師匠はまた、柔らかく微笑んだ。
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