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『大丈夫ですよ、湊君とケビン君ですから』
ふふ、と柔らかな師匠の笑い声は、いつもと変わらない。
なんて事のない、師匠の「大丈夫だ」という言葉に後押しされ、「はい」と短く、けれど、はっきりとした声で師匠の信頼に答える。
『……湊……無茶はしないでね……』
不安そうなニルスの声に、「大丈夫」とほんの少し笑顔を浮かべながら答えれば、『分かった』とニルスもまた気持ちを切り替えたようだ。
「では、一旦切ります」
『気をつけて』
「はい」
プツン、と回線が途切れた音が、妙に耳に響いたように聞こえるが、前を歩く男は、一向に気づくことはなく、僕は何だか少し可笑しくて、ふふ、と小さく笑った。
暫く、ぐるぐると階段を昇り、長い廊下を歩き、幾つかのドアを抜け、いつの間にか、大広間の上の階にまであがってきていたらしい。
何やらより一層キラびやかな装飾の廊下をキョロ、と眺めていれば、前方に見知った者の気配を感じる。
距離が近づくにつれ、相手も僕に気がついたらしい。
ひら、と振られた手に、クス、と笑えば、「おい」とドスを効かせた声に意識を引き戻された。
「お前はもういい。此処に置いてゆけ」
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