第4話 特別な林檎

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 そう言って足止めをされた場所は、この城の中で一番なのではないか、と思うほど豪華な扉の手前にある小さな待ち合いのスペースで、小さいながらも、華やかなテーブルと椅子が置かれている。  女王との謁見記録でも取るのか?などと考えながら観察していれば、「聞いてるのか?!」と男が少し声を荒げた。 「あ、失礼しました。あまりにも此処が豪華で驚いてしまいまして」  一応、嘘は言っていない、と思いながら男の声に答えれば、「そうだろう!」と何故だか男が自信たっぷりに答える。 「だがな! この装飾など目じゃないくらいお后様はお綺麗なんだ!」 「へえ、一度、お見かけしたいものですねぇ」 「お前みたいな平民が簡単に会えるお方じゃない! わかったらさっさと林檎を置いて帰れ!」  ダスダス、と足音を響かせながら僕に近づき林檎へと手を伸ばしてくる男をひょい、と避けながら、「ですが」と言葉を返す。 「今回の林檎は、特段に美味しく、美しく出来上がったもの。そんな林檎が、貴方がそんなにも心酔するほど、お綺麗なお后様の手のひらに収まる……いち林檎農家の者としては、是非、その光景を目に焼き付けたいと思うのですが」 「お后様にはオレからお渡しする!お前はいつものように林檎を持ってさえくればいいんだ!」  飄々と言葉を返した僕に、男が顔を真っ赤に染めながら、声を荒げる。     
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