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「師匠は、ここを守る使命がありますから」
カタカタカタカタ、と部屋の窓が小刻みに揺れる。
けれど窓の外の木は空へと真っ直ぐに立ったままで、部屋に置かれた水槽も、テーブルの上のマグカップも揺れを現す波紋は現れない。
「この揺れは……またあの本ですか?」
「ええ。けれど、あの子にだって悪気があるわけでは無いですから」
「それは……分かっています。でも……」
ちら、と床にある扉を見やると、振動が止まる。
その様子に、ほっ、と小さく息を吐いた僕に、師匠はふふ、と優しく笑う。
「まぁ、とにかく。ひとまずは、林檎農家さんに話を聞くところから、始めましょうか」
「了解しました!」
そう言って、ぱたん、と師匠が閉じた本の表紙には、真っ赤な林檎と、大きな鏡が描かれていた。
「ええと………確か資料によると、この辺りだったと思うけど……あ、人がいる。すいませーん!」
ぶんぶん、と手を大きく振りながら声をかけた僕に気がついた人影は、「なんですかぁー?」と大きな声で答えた。
「お父さぁーん、お客さんだよー!」
林檎畑の入り口で俺を出迎えてくれたのは、僕よりも年下の少年で、お父さんに用事がある、と伝えた僕に、不審者を見るような視線を向けたあとに、畑にいる人物へと声をかける。
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