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第5話 閉錠
「し、執事長!!」
「近衛のものが、お后様のお部屋の近くで執事と謁見者が揉めている、とワタシを呼びにきたのですが、貴方ですね?」
驚いた表情を浮かべる男とは反対に、執事長、と呼ばれた白髪混じりの男性は、執事服の男を見たあと、僕と、僕の手元の箱に視線を動かし、執事服の男へ呆れたような表情を浮かべながら口を開く。
「貴方は確か、少し前にも、林檎農家のかたと揉めていますよね?今度は何です?」
「……ちがっ、これは!!」
「何ですか? 何か言い分でも?」
「違うんです! こいつ、こいつが分けの分からないことを言い出すから!」
「分けの分からないこと? 何です? それは」
執事長が眉間に深く皺を刻みながら、執事服の男に問いかける。
「……湊、何も言わないのか?」
僕の隣に並んだケビンが、コソ、と小さな声で耳打ちをしてくるが、「言わないよ」と執事服の男と執事長のやり取りから目を離さずに答える。
「何で?」
「すぐに、わかるさ」
ケビンの質問に、そう答えた直後、ぶわ、と鼻につく濃厚な花の薫りが、突然、一帯を覆う。
それと同時に、ギィィ、とそれはそれは豪華な扉がゆっくりと開いた。
「わーお」
「……お后様の、ご登場、だね」
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