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扉の中に入ると同時に、浮遊感と暗闇が身体を包み、明るくなった、と思った瞬時には、重力が戻り、「よっ」と、店内の床に足をつけば、いつもの通り、キシ、と木の床がほんの少し歪む音が聞こえる。
振り返って見えるものは、壁に取り付けられた傷さえも味わいと云えるほど古い木で作られた扉で、その扉の隙間から僅かに溢れていた眩しい光は一分も経たないうちに消える。
「閉錠」
その扉の鍵穴部分に手を翳しながら、簡潔かつ確実な魔法を使って扉に鍵をかける。
この扉は、こちら側の世界と、本の中の世界を繋ぐもの。
鍵を開けるには、店主ユーグのように鍵を持つ者か、【扉】に認められた者にしか、異世界への通路は開けられない。
この店で働くこと数年。つい最近になり、僕もやっと閉錠の魔法に関しては任せてもらえることになった。
ガチャン、と大きな音とととに、鍵穴が修復屋の金属の紋章で覆われる。
この扉から本の中に入り、出てくるまでの一連作業を終え、ふう、と短く息をつけば、んー! と隣に立つケビンから元気な声が聞こえてくる。
「はああ! 久しぶりの外だ!」
「ケビンはそうだね」
大きく伸びをしながら言うケビンに、「お疲れ様」とポン、と肩を軽く叩きながら言えば「へへっ」と嬉しそうな顔で笑う。
「俺、先にコレ、先生んとこに置いてくんね!」
「あ、僕も行くよ」
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