第6話 真っ赤なインク

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 ぽんぽん、頭を撫でる師匠の瞳は、初めて此処に来た時と、変わっていない。 「私のために、もう少し、手のかかる子でいてください。(そう)君」  泣き出したくなるほど、優しい眼差しで覗き込んでくる師匠に、言葉が上手く出てこず、「……はい」と短く頷けば、師匠がまた、くすくす、と嬉しそうに笑う。 「でわ、湊君、最後の仕上げをしに参りましょうか」  にこり、と微笑む師匠の言葉に、僕は「はい!」と大きく頷き答えた。 「あ、やっと来た!」 「先生、湊、どこ行ってたのさ」 「ちょっと、ね」  扉の部屋に置いておいた予備の杖を師匠に手渡し、ゆっくりと杖をついて歩く師匠に合わせて、原盤の待つ部屋へと入れば、最後の修復作業の準備をしていたニルスとケビンが僕たちに気がついて駆け寄ってくる。 「ああ、そうだ。ニルス、ケビン。僕と師匠の作業中に一つお願いがあるのだけど、いいかな」 「なに?」  この部屋にくる途中、廊下に置かれていた羊皮紙の切れ端を二人に見せながら声をかける。 「あ! それコボルトからだろ!」  そう声をあげたのは、ニルスの一歩後ろから見ていたケビンで、「それ、確か……」と羊皮紙に書かれた少し変わった記号を見ながらケビンが腕を組む。     
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