絵ハガキ

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絵ハガキ

 学生時代からの友達に、根っからの風来坊としか言えない奴がいる。  周りが就活に必死になっている中、そいつだけはどこ吹く風で、卒業と同時に旅に出た。以降、そいつは十年以上気ままな旅暮らしを続けている。  行く土地土地でバイトをしながら呂銀を稼いでいるらしいが、基本的に人に好かれる奴だから、多分周りの善意に支えられて生きてるんじゃないかな。  そういう友達から、たまに絵ハガキが届くんだ。  そいつが訪れた土地の、名所や名物写真の絵ハガキ。友達自身の言葉は一言もないけれど、それが届くだけでそいつの足取りが何となく判る。だからずっと絵ハガキが届くのを楽しみにしていたが、三カ月程前から届く絵ハガキの印象が変わった。  送られてくるのはいつも花畑の写真で、どこにいるのか割り出そうにも、消印が必ず滲んでいて読めない。  どこか、綺麗な花の咲く場所に長逗留しているのだろうか。でも、以前なら同じ土地から何枚もハガキを送って来ることなんてなかったのに。  少しの疑問を覚えつつも、届く絵葉書を笑顔で受け取っていたけれど、ある日届いた黒縁のハガキが総てを変貌させた。  友達の家族が出したそいつの訃報。  三か月前から連絡が取れなくなり、万が一を考えて警察に捜索願を出したら、旅先の、人が滅多に訪れない場所で死んでいるのがようやく発見されたということだった。  その知らせを聞いて一番驚いたのは友達が死んだ時期だった。  家族が捜索願を出したのが三カ月前。遺体が見つかったのは最近だけれど、調べた結果、友達は捜索願が出された頃にもう亡くなっていたらしい。  でも、俺の家には先月も先々月も絵ハガキが届いている。  一面綺麗な花が咲き誇る、花畑からの絵ハガキ。  もしかしてこのハガキは、今お前がいる『そこ』から届いたのか?  ハガキを送ってよこすくらいだ。きっといい場所なんだろう。でも俺がそこに行くのは多分何十年も先の話だ。だから当分絵ハガキは送らずに、そこでただのんびりゆったり過ごしていてくれ。 絵ハガキ…完
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