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それでもあと少し、もう一度だけ、って。
だっていつか彼が奥さんと喧嘩して、フラれて、離婚するかもしれないじゃないって、考えてしまったりもして。
最低だけど、でも、「そんな性格だから付き合えない」なんていうフラれ方すら、できないんだもの。少しくらい意地悪な希望を抱いたって誰にもバレないのなら、少しくらいは、自分を甘やかしたい。
本気になんてなってない。好きになりかけていただけ。まだ入り口だから大丈夫。そんなことを言い聞かせている私は、既に彼に恋をしていて、好きになってしまっているのだ。
過去の何でもないやり取りを見返して、せめてこのメッセージの最中くらいは私のことをいい子だなとか可愛いなとか思っていてほしいと思う。次に彼に会う時だって、きっと私は目一杯のお洒落をして行くだろう。そして「あなたは既婚者でしょう」ということを嫌でも自覚するようにお喋りをしてあげる。こんなに可愛くてこんなにいい子をあなたは逃すのよ、独身だったら付き合えたのに馬鹿ねって、楽しそうににこにこしながら、呪ってあげるの。
もう少し早く出逢っていれば、って、彼も思っていてくれたらいいのに。
一人しか座れない、先約有りの特別枠。
そこに座っている奥さんを思い浮かべて、コーラルピンクのマニキュアを塗ってみた。この手で彼の手を握ることを想像したりして、一本一本丁寧に指先を彩っていく。コーラルピンクはてかてかと色を放ち、小指のシルバーリングは電灯の橙色を跳ね返す。
どんなに綺麗に塗ってみても、やっぱり私には、コーラルピンクは似合わない。
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