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第一章 朱夏《しゅか》
序
ぅらり……と、闇がゆらめいた。
荒れ狂う大波が、淀んだ海底をわずかばかり掻き混ぜた時のように……。
その吹き抜ける風のようなゆらめきに、闇の底でそれは目を開けた。
開けた瞬間、眩しさで目を閉じ、再びうっすらと目を開ける。
頭上には、木洩れ日のようにまっすぐに、金色の輝きが舞い降りている。
蜘蛛の糸のように、か細く、たよりなく…… 切ないほどに、まばゆく、温かい。
人のかたちをしたその闇は、その輝きが、今にも消えようとしている人の命であることを知っていた。
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