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なぜかしら。
桜を見ているとどうしても、大切な何かを忘れている気がして仕方がないの。
そう言ったら、彼はまーるい目をもっと丸くして、俺もそう!と言った。
私の部屋の近くにある公園には、一本だけ大きな枝垂れ桜の木があって、雪のようにハラハラと花びらが舞っている。
二人で飲みに行った帰り道、満開の枝垂れ桜を見て、吸い寄せられるように桜の木の下で舞い落ちる花びらを掴もうとして、そんな私を見て彼は綺麗だね、って笑った。
彼の優しい笑顔につい。ずっと思っていた不思議な感覚を打ち明けた。
「ごめんね、急に。変でしょう?」
「それわかるよ、俺もそうだよ」
「そうなの?……いつから?」
「物心ついた頃?高校の時には多分もうそうだった」
「それは、どんな気分?」
「焦りというか……不安にも似てる。ここでこんなことしてる場合じゃないのにって」
「……」
「変だろ?」
「一緒だ……」
二人で思わず目を合わせる。
「なぁ、もしかして……なんだけど」
「……」
「や、やっぱ、やめとく……」
苦笑いした彼の目が、遠く、遠くを見た。
その横顔が綺麗で消えそうで、慌てて言う。
「笑わないでね?」
「うん」
私を見て彼が微笑む。
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