11.サヴォタージュ

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「…じゃあもう、許します。 瞳さんには助けられたことも有ったから。 そんな悪い思い出ばかりじゃないですよ」 「あ、ありがとう!」 …単純だな、と思った。 そして素直だな、とも思った。 そうか、こうして人は成長するのか。 私も逃げてばかりいないで、 そろそろ向き合う時期なのかもしれない。 そんな決心を褒め讃えるかのように、 院内放送が鳴り響く。 まずは面会時間終了5分前を告げる音楽。 その後に帰宅を促すアナウンスが続き、 私達3人は芳に別れを告げて病室を出た。 「あ…れ?あれれ」 「どうした、雅?」 夜間通用口のドアを開けながら、 ふとポケットが軽いことに気づく。 「あ、スマホ置いて来ちゃった…」 「どこに?」 「芳の病室で充電させて貰ってたから、 多分そのままになってると思う」 「仕方ない、取りに戻るぞ」 私と光正は再び病室へと向かい、 瞳さんは呼び出しておいたタクシーで 先に帰って貰う。 事情を説明すると看護師さんは、 病室に入ることを快く許可してくれた。 「雅は肝心なところで抜けてるからなあ」 「シッ!院内では静かにしましょうね!」 そんな軽口を叩きながら ドアをノックしようとしたその瞬間。 うっ、ぐっ、ふ、ううっ。 嗚咽が聞こえたので そっとドアを開けると、 …芳が必死に声を押し殺して泣いていた。
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