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――私と共に在れ、と父は願いを託して、庭に一本の桜を植えた。
私よりも小さかった桜は、少しずつ大きくなり、やがて私を見下ろすほどになった。
最初に花が咲いた年のことを、今でも覚えている。
豆粒のような濃い桃色の蕾。きつく閉じていたそれはほころび、可憐で儚げな花が私たち家族に笑んでくれた。
酒豪の父は、その一輪でいつもの倍の量を飲んだ。母が止めるのも聞かずに、一升瓶を空っぽにした。
夏の毛虫には困らされた。服の中に入った時は大騒ぎをした。
秋に近づくと徐々に寂しくなり、冬は凛とそこに立つ。
健気な蕾は開花の時期まで寒さに耐え、そうしてまた春がやってくると、淡く微笑む。
私は、この桜が大好きだった。……。
次々と浮かぶ薄紅色の思い出に耽溺しながら、私は、手に持ったロープの塊をほどいた。
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