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高い位置にある枝がいい。
なるべく、太い枝がいい。
私の体重を支えられるくらいに。
天井の梁ほどの太さの、ちょうどよい按配の枝を選んだ。これなら大丈夫だろう。
脚立に乗って枝にロープを巻きつける。頭が入る大きさの輪を作って、しっかりと結びつける。
湿り気を帯びた風に、輪が揺れる。黎明の薄闇に溶けかけて、首を吊るためのそれは現実感がひどく希薄だった。朝陽はまだ遠い。
私は輪の中に頭を通す。
ロープが、柔らかい皮膚に食い込んだ。
……どうしてこんなことをするのか。
思い立ったのは今から三十分前だ。
先日急逝した父の葬儀を終えた昨夜。親戚を見送った私は、一人になった途端緊張の糸が解け、父の遺影や遺骨を載せた祭壇の前、真新しい木綿の掛布を見ているうちに眠ってしまった。
不摂生によって病に倒れた父は、長年寝たきりだった。間が悪いことに母はその直前に亡くなり、当然のように私が介護することになった。
当時、私は社会に出たばかりだった。
何も知らない愚直な小娘であった私は、頑固者の父が外部からの手伝いをひどく拒んだこともあり、一から十まですべて自分でやろうとした――やってしまった。
就いたばかりの職も辞め、寝たきりの父というハンデを背負った私は、恋人にも別れを告げられた。友人とも縁遠くなり、もともと親戚とは疎遠だった。
二十年以上、独りで父の面倒を見てきたのだ。
父が亡くなり、ありていの葬儀を行い、あまり顔を覚えていない近所の人々やそもそも顔を知らない親戚、父の昔の知人などが帰った後。
眠りこけた私は独りきりとなってしまった家で、肌寒い中、目を覚ました。
鈍痛を訴える頭で、顔を洗おうと洗面所に行きーー
私は鏡を見た。
乾いた肌の、艶の無い髪の、光の乏しい瞳の、からっぽの抜け殻の、老いた女がいた。
それだけで充分だった。
物置からロープを探した。私と同様にガタが来ている家の補修に使うために、先月購入したものだ。
脚立を片手に持ち、私は――あの桜の木の下へ、向かった。
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