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俺、太田弘樹は物件探しをしに、不動産屋へ来ていた。
「何か条件はありますか?」
「この町の中であればなんでも。あ、事故物件とかは嫌です」
「はぁ……。ではこちらを見ていただいてよろしいですか?」
あまりにもアバウトな条件に呆れながらも、従業員は大きなファイルを俺の前に置いた。
俺はファイルを自分の方へ引き寄せると、安い部屋はないかと探し始めた。
「ん?」
半分以上めくっていると、気になる物件が見つかった。
「何か気になるものはございましたか?」
「あの、これなんですけど……」
俺は気になる物件を指さした。それはアパートの1階の部屋で、左から2番目の部屋。何故か同じ建物の他の部屋より1万円も安い。
「あぁ、そちらですか。私も気になる事は存じ上げておりませんが、なんでも左端の住人が変わっているとかで。お時間宜しければ大家さんに聞きに行きますか?」
「え?今から聞きに行っても大丈夫ですかね?」
大家さんがどんな人かは知らないが、いきなり行くのは良くないだろう。
「このアパートの大家さんはいつでも来てくれと言ってますので大丈夫だと思いますよ」
……本当にそれでいいのだろうか?
「まぁ、そういうのでしたら……」
「では参りましょうか。ここから歩いてすぐですので、徒歩でよろしいでしょうか?」
運動になるしいいかな。
「はい、構いませんよ」
俺が返事をすると、従業員は荷物をまとめて立ち上がる。
「では案内致します。こちらです」
外に出て歩く事5分、まだ歩く様だ。
10分、まだまだ歩く。
15分、彼が止まる気配はない。
20分、どこまでも歩く。
そして30分……。
「ここです、着きましたよ」
従業員は写真通りのアパートを指差して言う。
「ねぇ君、ここ来るのに30分も歩いたよ!?これのどこが少しなの!?」
「30分なんて少しじゃないですか」
彼は涼し気な顔で言う。
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