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「お待たせしました。ささ、どうぞ」
大山さんは恵比寿顔で俺の前にお茶を置くが、どうもいかがわしいものに見えてしまう。
「大山さん、僕のお茶は……」
彼の言葉にテーブルを見ると、お茶はふたりぶんしかない。
「はっ、貴様は泥水でもすすっとれ!」
大山さんは吐き捨てるように言うと、そっぽを向いてしまった。どうやら先ほどの事を根に持ってるようだ。
「ではロイヤルミルクティーでも飲んでますね」
笑顔でカバンからペットボトルを取り出すあたり、コイツはゆとりでもだいぶタフガイなんじゃないかと思う。
大山さんはつまらなそうにそれを見ると、再び恵比寿顔になって俺を見た。
「それで、どの部屋をご希望で?」
「1階にある例の部屋が気になるそうですよ」
俺の代わりに答えたのは従業員。このアパートの資料をテーブルの上に広げる。
「む、そうか……あの部屋か……」
大山さんは途端に難しそうな顔をする。
「あの、何か問題が……?」
「あの部屋自体問題は無い。むしろ借りる人が少ないから状態はこのアパートの中で1番いい。いいんじゃが……ここが、な……」
大山さんは左隣の部屋を指さした。
「ヤクザが借りてるとか……?」
「いや、借りてるのは穏やかで綺麗なねーちゃんじゃ。倉田沙友理さんといったかの……」
穏やか、という事には性格に問題がある訳では無いようだ。じゃあなんだ?おかしな習慣があるとか?
「穏やかで綺麗な人の何が問題なんですか?」
「なんというか、その……。寝言が凄いらしい……」
「寝言?」
予想外の問題に拍子抜けしてしまう。
「百聞は一見にしかずじゃ。金は取らん、3日ほどあの部屋にお試しで泊まってみるといい。今日からでもどうじゃ?」
「急ですね……。じゃあ3日ほどお世話になります」
俺は今住んでる部屋から必要最低限のものを持ち出すと、さっそく泊まりに来た。
「とりあえず挨拶でもしとくか」
隣の住人は問題の左隣しかいないらしい。俺は途中コンビニで買った菓子折りを持って、隣の部屋へ行った。
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