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1.家族と私
「忘れ物は無いだろうか?」
私は黒色のキャリーバックのファスナーを閉めながら、頭の中でそう呟いた。
18年間過ごした部屋は、勉強机が一つ置いてあるだけの殺風景に変わっている。
唯一お留守番を任された勉強机、その引き出しには、小学生の時人気だったアニメのキャラシール達が数十枚貼られていて、多彩な油性ペンで描かれた私の落書きが隙間から覗く。そして一番大きな引き出しに貼り巡らされている、『茸姉妹』の『超マリ子様』と、『ヘアトニック・ザ・ヒッチコック』の『トニック』のシールの隙間から「サラリーマンになりたい」という文字が見えることに気が付いた。
その文字を久々に凝視した私は、「んなわきゃない」と、声には出さなかったのだがツッコミを入れてしまっていて、挙句の果てには一人で微笑んでしまっていた。傍から見るとさぞ気持ちが悪かっただろう。一人でよかった。
そんな、何の生産性もない時間を過ごして一息ついた私は、岡山・大阪間の高速バスチケットを、クシャクシャになってしまわないように丁寧にポケットに滑り込ませ、部屋とはお別れをすることにした。
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