1.家族と私

2/5
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
 すぐ隣の部屋のドアをノックする。中から返事は無い。 「入るよ」  ドアを開くと、敷布団に横臥した父が部屋の中でテレビ画面をぼんやり眺めていた。 父の横臥している布団のシーツは、黄色の鉛筆で全体を軽くなぞったような色合いをしている。こいつは長年に渡って染み込み続けた父の頭皮や汗が色染めされた事が原因で、いくら洗ってもまるで色落ちすることがないため、母はいつも嘆いている。新品時は綺麗な純白だったとは、今ではとてもとても思えはしない。何故こんなことになってしまったかというと、父は家に居るときは大体この上で生活し、飲食までここで行っている。しかも普段からあまりに洗濯をしなさすぎ……いや、もうよそう。嫌だよ。  私は目の前の薄黄色の現実から目を背けることにした。 「そろそろ行きますわ」  そう告げた事でようやく私の存在を認識した父。 「おう、そうか」 「それじゃあ」  私はそれだけ言ってドアを閉める。     
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!