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初めて入る先輩の家。 私が居場所を探して戸惑っていると、「遠慮なんてしなくていいよ、どうぞ」とソファを勧めてくれた。 何の躊躇いもなく隣り合って座り、途中コンビニに立ち寄って買った缶ビールやお菓子を開ける。 実は先輩と二人きりになるのは久しぶりで、少し緊張していたのだが、それもお酒の力で解れていった。 他愛もない話をしながら時間が過ぎ、ふと気が付くと時計の針は2時を指していた。 お互いにちょうどよく酔いも回っていたその時、ふいに先輩が私の方を見つめて「かわいい」と零した。 私は「急にどうしたんですか」と笑いながら、胸の鼓動を抑えきれずにいた。 私にも先輩にも恋人がいることへの、そして二人きりになっているこの状況への後ろめたさを、その一言が全て吹き飛ばしてしまった。 先輩との距離が近付いていく。 頭の片隅で(だって彼氏にかわいいなんて言ってもらえたことないんだもの)(先輩だって彼女さんと上手くいっていないんでしょう?)と、言い訳がよぎった。 そしてそのまま先輩と触れ合った。 「かわいい」という言葉も、優しい手付きも、上手なキスも、私が欲しかった全部がそこにある気がした。 次の日の朝、先輩の腕の中で目覚めた時の多幸感を何と表現すればよかったのだろう。 偶然が重なり、お酒の勢いに委ねた、一夜限りの過ち。 先輩に下心があったのか、私に下心はなかったのか、もう、そんなことはどうでもよかった。 ただあの夜を思い出すたびに、胸が締め付けられるような甘い痛みが走った。 あれから、先輩と二人きりになることはない。 お互いに恋人と何とかやっているのだろう。 知らなければ、なかったことと同じだ。 私も、あのとろけるような火遊びをたまに頭の中でなぞっては、そっと思い出の小箱にしまい込むことを繰り返している。 危険なスパイスは、日常を壊してはいけないのだ。
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