雲のなかで

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 「いいよ。」  ミカはその場にゴロンとした。私はミカの周りに、ミカが数日前に引き抜いてしまった、くしゃくしゃなティッシュを出してばらまいた。しわを伸ばして、雪みたいに上から降らせたら、    きゃはは! ミカはくすぐったそうに笑った。  雲の中で笑っているみたい。  あの人にも見せてあげようっと。私はスマホでパシャッと写真を撮って、夫に送信する。  それから私もミカの横にゴロンとする。手を伸ばして2人でもパシャっと撮る。  クスクスとティッシュの雲の中で笑っていたら、眠くなった。  ミカの首の下に手を差し入れ、抱き抱えるような形になって目をつむる。  ちょっとだけ、寝よう…。           ※※※※※    夕焼けが色を失って、影が部屋を染める頃、玄関の鍵がカシャッと小さな音を立ててあいた。  「あははっ」  家にはいってくるなり、スーツを着た男の人は笑い声をたてた。  (スマホの写真に付いていた説明のコメントは、雲の世界の天使、だったっけ? うーん、実際見たらやっぱりただのティッシュだよ。)  (でも…、僕にだけは、ふふっ、やっぱりどう見てもティッシュだけどさ、僕にだけはね。)  カシッとスマホで写真を撮る。  「おーい、起きろー!」  それから二人を起こした。  スーツの人はネクタイを緩めながら、  (二人が目を覚ましたら、雲の中で、僕の2人の天使さん達は何の夢を見ていたの? って聞こう。)  と思った。  部屋にはティッシュと取り込んだ洗濯物がちらばり、この様子では多分、夕食も出来ていないだろう。  冷蔵庫からビールを出して、プシュッと開けて、グビッと飲む。  (だけど、もしかするともしかして。僕は今、幸せなのかもしれない)と思いながら。     
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