第一話 『鈴音という名の地獄』

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第一話 『鈴音という名の地獄』

 事件の起こる丁度一週間前、私……白羽 鶴は妹と共に故郷の鈴音村へと帰省した。  戦時中、田舎ではあったけれど、この鈴音村にも大きな被害が及んだ。規模も小さく、医療設備なども整っていない閉鎖的な村など、一瞬で焼き払われてしまうと思っていた。  少なくとも私の両親はそう考えたらしく、私たち家族は村を捨て、疎開した。村人たちからは激しく非難されたが、生きるためには最善の手段だったと思う。  しかし、戦時中に安全な場所など無かった。どこへ逃げても、この日本の空の下に生きる限りは。  疎開先で私の両親は空襲により焼け死に、私自身もその時に左目を失った。  そして、何の罪もない人々に深い傷を残し、昭和二十年に戦争は終わった。  戦争が終わっても、全てが元通りになるわけではない。失った両親と左目、それが元に戻ることは無い。  だが、私たちは生きねばならない。どんなに辛く、苦しい選択をしてでも。 私は幼い妹と共に生きるため、帰ることを決意した。 そう、故郷の……『鈴音村』に。 「久しぶりだなぁ……このボロ橋を渡るのも」 「お姉ちゃん……この橋、落ちないよね」  村と本土を繋ぐ唯一の木橋『鈴音橋』を妹の雪と共に歩く。     
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