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だが鶴は村を変えるのではなく、鈴音様の呪縛ごと滅ぼすことを選んだ。全てを狂わせた、この憎き鈴音村を完膚なきまでに叩き潰す事を。
「鈴音様はあなた方を信じていらっしゃるのです。だからこそ、この最後の置き土産が皆様にとって大きな活力となる事でしょう。その置き土産とは……戦争で失われた尊い命たち……それを、鈴音様が黄泉の国からこの村へ呼び戻すのです」
鶴の言葉に、群衆の動揺はさらに大きくなる。
何人かの村人が、鶴のもとへ雪崩込み、鶴の足元に縋る。
見れば、工藤 源氏とともに鈴音様を狂信的に讃えていたボケ老人たちだった。
「そんなことが……そんなことが、本当に、鈴音様には可能なんでしょうか」
目に涙を浮かべた老人が、血眼になって鶴に問う。この老人も戦争で家族を失い、精神を病んだ結果、祖父と同じように鈴音様の妄執に取りつかれることになったのだ。
老人の問いに対し、鶴は黙ってうなずく。
「それは、あちらの対岸を見れば分かるでしょう」
鶴は村と外部を繋ぐ鈴音橋の向こう側、対岸を指さして言う。
「あれは……」
俺には、対岸におんぼろのカカシが数体立っているのが見える。
昨晩、俺が意味も分からずに、鶴に言われたとおりに設置したものだ。
だが、老人たちはそのカカシを目にし、血相を変えて叫び始める。
「幹夫……幹夫じゃ!」
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