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「一郎……あれは、確かに戦争で死んだ私の息子です!」
老人たちは揃って子供たちの名を叫ぶ。戦争で、死んだはずの子供たちの姿が、彼らには確かに見えているのだ。
そして俺はようやくそのカカシを設置した理由を悟る。
「ご自身の目で、はっきりと見えたでしょう。一度死んだはずの、大切な人たちの姿が」
鶴は、あのカカシたちを、死んだ者たちの姿に誤認させているのだ。
それぞれの心に眠る、大切な人の姿であると……『誤催眠』を用いて幻視させている。
やがて、老人たちの他の村人たちにも『誤催眠』の効果が表れ始め、次々と対岸へ言葉を投げかけ始める。
「す、鈴音様……我々は、一体どうすれば……どうすれば彼らをこちら側、鈴音村へと迎え入れることができるのでしょうか」
老人の一人が、鶴の前で膝をつけて崇めるように問いを投げる。
彼らは死者を幻視したことにより、確信したのだ。この鶴という少女が、紛れもなく鈴音様の声を代弁する、神の使いなのだと。
「簡単な事です。この鈴音橋を渡り、迎えに行けばいいのです。ただ……一つ問題がありまして」
鶴は口元を醜く歪め、それを口元で抑える。
村人たちに希望を与え、そしてそれを容赦なく奪う。それが鶴にとっては愉快でならない。
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