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「黄泉の国から呼び戻す事が出来るのは、十名の魂までなのです」
鶴は今までで一番愉快そうな顔をして、村人たちに言い放った。
村人たちの声が止む。希望に満ちていた村人たちの表情は、一気に固まり、感情が後退していく。
「つまり、全員を蘇らせることは叶いません。誰を生かし、誰を殺すか……それはあなた方次第です」
空気は一瞬にして凍り付いた。
先ほどまで血眼になって鶴に駆け寄ってきた老人たちも皆、黙り込む。
「ですから、皆で考えるのです。誰を蘇らせるべきかを。団結した今の村なら……きっと悔いの無い選択ができると信じていますよ」
鶴の狙いは、村人に刹那の希望を与え、そしてそれを容赦なく奪う。そして、欲望に塗れた村人の間で醜い争いを起こす事。
人の命が関わる話だ、まず他人に譲ることができる人間などいない。それも、皆が大切に思う、何を犠牲にしてでも取り戻したいと願う命。
誰しもがこう思うだろう。他人を蹴落としてでも、自分の愛する人を取り戻したいと。
「俺は……俺は! 俺の息子を蘇らせたい!」
「そんなの、皆同じよ! 私だって」
「じゃあ、どうやって決めるんだ! 皆、それぞれの事情があるのは当たり前だろう!」
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