41人が本棚に入れています
本棚に追加
腐りかけの木の香りがぷんぷんした。元々丈夫な造りの橋ではなく、昔からこの橋は大勢で渡ってはいけない、と大人たちに強く言われていた。
実際、私たち二人だけが渡っていても橋はぎいぎいと軋んでいる。
遥か下の方には激流の川が流れている。落ちれば、まず助からないだろう。
「雪はまだ小さかったもんね、橋の事を覚えてないのも無理はないか」
雪は私の裾を掴みながら、静かに橋を進む。
「けど、もう着くからね。私たちの故郷であり、これからの家がある鈴音村に」
妹を慰めながらもようやく橋を渡り切ると、目の前には懐かしき鈴音村の景色が広がっていた。
決して美しいとは言えない、寂びついた景色。四方を山々に囲まれた閉鎖的な空間。
私の知っている頃に比べても、この村は戦争を経て更にやせ細ってしまったように見える。
景色に加え、村に漂う負の空気感。畑を耕す村人たちを遠目で見ても、その姿からはまるで生気が感じられない。
だが、この村が私たち兄妹の新たな住処なのだ。文句など言っていられない。
「それじゃ、おばさんのところへあいさつに行こうか。お昼ご飯はそれから」
しかし、雪には悟られないよう、故郷に帰って来たことに感動する姉の演技をする。
こんな錆びれた村でも、これからはここで生きていくのだ。姉として文句なんて雪の前では言えない。
最初のコメントを投稿しよう!