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鶴は薄ら笑いを浮かべていた。ひどく不気味で、感情の感じられない機械的な笑み。
「さっきの賢と同じだよ。自分が楽になりたいから、やるの。おかしいかな? 私がこの村を滅茶苦茶にしてやりたいから、復讐する。いいじゃない、この村の連中が散々好き勝手やって来たんだもの、私だって一つくらいわがまま言いたいわ」
鶴は不思議と楽しそうだった。これから村に起こる事を考えると、愉快で仕方ない。そう言いだしそうなくらいだ。
「疎開先で、宣教師のお婆さんが聖書を読んでくれたの。そこに、印象的な言葉があった。『復讐するは我にあり』。人に罰を与えるのは、人ではなく神だという戒めの言葉。人間には本来、他人を裁く権利なんて無いのよ。どんな理由があってもね」
「俺たちだって、その一員だろ。俺たちは……神じゃない」
俺はようやく口を開いた。
復讐なんてするべきじゃない。そう言いたかったのに、鶴の楽しそうな顔が一変して、俺まで殺されてしまいそうに思えて、言う事が出来なかった。
「私たちじゃない。鈴音様にはその権利があるでしょう? 私の左目で生き続けている鈴音様には」
鶴の左目の輝きが増した気がした。まるで、鶴の意思に鈴音様が同調しているようにも見えた。
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