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戦争で夫と息子を亡くし、彼女の心には大きな穴が開いた。そして、彼女はその穴を埋めるために……俺の祖父と同じく鈴音様への異常な信仰を始めた。
どうやら鈴音様の力があれば夫や息子の魂は救われると祖父に唆されたのがきっかけらしい。その日から彼女はその言葉に縋るように鈴音様を崇め、称えた。
村でも厄介者に見られていた彼女は孤立し、更に鈴音様への信仰にのめり込んでいった。
鶴はこの女に目を付けた。戦争によって家族を失い、弱った心。更に鈴音様の信仰にも積極的で、他人との関わりも薄い。鶴の異能を活かすには十分な獲物だった。
夕暮れ時、道の隅で三人の中年女性が立ち話をしていた。
「ねぇ、この前のアレ……結局事故って事で片づけたって。今朝駐在さんが言ってたわ」
「結局、あれは工藤さん所の源治さんの仕業だったのよね?」
「源治さん、終戦後から急におかしくなったのよ。戦争で多くの仲間を失って、更に日本が負けたもんだから」
話題はもちろん先日の『事故』……いや、『事件』についてだ。
あれは明らかに事件だった。だが、事件が明らかになれば俗世間の好機の目にこの鈴音村は晒されてしまう……それを危惧し、事件は事故として内々に片づけられたようだ。
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