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だが、私にはそれがない。家族の団らんなど、私には無いのだ。
家に帰り、戸を開けても誰もいない。出迎えてくれる夫も、子もいないのだ。二人とも戦争で私の前から消えて行った。夫は未だに行方不明、息子の遺体は薬指だけが発見された。
出兵の日、私は夜通しで編んだお手製の巾着を渡して送り出した。けれど、二人は帰ってこなかった。
「……」
仏壇に黙って手を合わせながら、白羽家の家族を思い出す。
私の夫や息子が村を守るために戦う中、奴らを簡単にこの村を捨て、逃げた。
私の家族だけではない。皆、村を守りたい一心で団結し、皆戦った。だが、奴らは命が惜しくてその義務を全うしなかった。
そんな裏切者が、終戦後にのこのこと村に帰って来た。許せるわけがない。誰がこの村を守ってきたと思っているんだ……これが村人の総意だ。
「……あなたたちのお蔭で、村は今日も平和でしたよ?」
仏壇の前で手を合わせる。こうして毎日、仏壇に報告をすることが私の日課だった。
私にとって神聖な時間……だが、それを打ち砕くように戸が激しく叩かれる。
苛立ちを覚えながらも私は戸に手を掛け、客人の前に出る。
だが、その客人は私の予想するような人物では無かった。
「こんばんは、笛吹のおばさん」
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