第四話 『第二の悲劇 針千本』

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 実際、あの戦場にいた人間の一部しか知り得ないはずの情報を、こんな子供が把握している。 「さぞ無念だったでしょう。戦争のための道具として、最愛の息子が無残にも肉の破片となったのですから。それに加えてあなたは夫も」  帰って来た指の、それも関節までこの娘は知っている。  偶然ではあり得ない。それこそ神でなければ、見通すことなどできない。  私の心は、息子の死を言い当てられた事に加え、目の前の少女の放つ、神聖な空気感に揺らぎ始めた。 「なぜ、なぜ……お前がそのようなことを……なぜ!」 「なぜ……ですか。簡単な事です、私はこの人形……鈴音様の御神体が見通した真実を代弁しているだけなのですから」  そして、その手に抱かれた人形。古びているが、何処か生気を帯びているような不気味な人形。  私は、ずっと昔。戦争が起こるずっと昔にこの人形を見たことがある。神社に祀られていた、決して触れることのゆるされなかった神聖な人形。 「お気づきになりましたか? これは過去にこの村に祀られていた鈴音様の御神体……『骨人形』です。この人形には全てが見えているのです、あなたの全てが」 「なぜ、なぜ……お前がそのようなものを!」  人形はその昔、村から突然消えた。そして、それから戦争がはじまり、村に災いが降りかかった。     
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