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もう、娘の言葉など耳に入らなかった。
目の前の骨の山が、息子であると聞かされ、私は疑う余地も無く息子との再会に涙を流していた。
「息子の亡骸を、一滴残らず飲み干す覚悟です。息子さんの痛み、苦しみの全てで喉を潤し、腹に収める事ができるのなら……」
私は骨の山からひとかけらを持ち、それを口にする。
針を飲み込んだような、鋭い痛みと血の味が口の中に広がる。
「痛い……痛い、痛い……こんなもの、飲み込んでしまったら……」
目の前の骨の山。これを全部飲み込めば、どれだけの痛み、苦しみが待っているだろう。
「息子さんの痛みはこんなものではありませんでした。戦場で、たった一人であなたの息子は死んだのです。あなたは母親として、この痛みに耐え、息子を黄泉の国から救い出すのでしょう? それとも、あなたの母親としての覚悟はその程度なのでしょうか」
口の中は血の味。喉の奥は鋭く痛む。
けれど、私は……母親として、息子を……息子を救い出さなければならない。それが責任でもあり、罪滅ぼし。
私は狂ったように次々と骨を口の中に押し込める。激痛と、吐き気と……そして喜び。
そんな感情に支配されて、私は喉が裂けるその瞬間まで、息子の亡骸を食し続けた。
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