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これで、綺麗に……潔白になれるのなら。
夕方になって多恵の家の前には村人が集まっていた。
家の前で、腹の裂けた多恵と無残な姿の胎児を抱きながら泣き叫ぶ夫。
笛吹に続き、異様な事件が発生した。母親が自らの腹を裂き、胎児をそこから引っ張り出して惨殺。そして、その母親も自らの臓器のほとんどを引きずり出し、死亡。
人間の起こせる事件ではない。村人たちの一部では本当に鈴音様の祟りなのではないかと言う声も上がっているようだ。
「妻はっ! 妻は……出産を心待ちにしていた! これから、ずっと三人で暮らしていこうって、ずっと約束してたんです……その妻がっ、なんで」
「自殺……とか」
「あり得ません! 誰かに、誰かに殺されたんです! 殺されたんだ!」
事情を聴取する駐在を怒鳴りつける夫。その姿は悲惨だった。
妻と我が子の骸を抱き、獣の様に泣き叫んでいる。
あまりにも凄惨な事件。これは、もはや人間に起こせるような事件ではないことは明白なはずだ。
「本当に……祟りなんじゃ、鈴音様の」
「ええ、その通りですよ。鈴音様の御怒りに触れた末路が、あれです」
私は人ごみの中からひょっこりと顔を出し、その言葉を肯定する。
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