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村人たちは私に気付くと途端に後ずさりをした。どうやら私は別の意味で嫌われ始めているようだ。
「お前……お前が妻をっ!」
目の前には血眼になった多恵の夫がいた。
彼は怒りに身を任せ、私の襟首を掴み上げる。
「おや、証拠でもあるのですか。私がどうやって多恵さんを殺すのです?」
「何かをネタに脅したんだろう! それに逆らえず、妻は!」
彼の言い分に私はため息を大きくついて落胆する。
どんなネタで脅したら、こんな凄惨な真似ができるのだ。少なくとも普通の人間では無理なのは明白だろうに。
「脅されたにしろ、ここまでできますか? 自我を保ったまま腹を裂き、我が子を手にかける……いくら脅されていたにしろ、普通の人間の精神状態ならこんな真似できませんよ」
もっともな意見だった。目の前の凄惨な光景を見れば、普通の人間の所業でないことは確かだ。
それこそ、神が多恵を操って引き起こした、祟りと言われれば誰もが納得するだろう。
「それに、多恵さんにとってお腹の子供より大切なものなど無いでしょう? それはあなたが良く知っているはずです。多恵さんにとって、ようやく授かったこの子がどれだけ大切だったか」
その言葉に多恵の夫は黙り込む。多恵がどれだけ子を愛していたかはこの男が一番よく知っているはずなのだ。
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