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そして、その感情を歪めることなど普通なら到底かなわない。だが私はやってみせた、この左目の義眼に宿った『誤催眠』で。
「しかし、鈴音様の祟りには抗えなかった。人の意思を歪める事など、鈴音様にとっては造作もない事なのです」
多恵の夫はその場に膝から崩れ落ち、廃人の様な表情になっていた。
「あなた方はいい加減気付くべきです。自分たちの愚鈍さ、そしてこの村の正体に」
村の中の混乱は次第に大きくなり、村人たちの表情には明らかに恐怖と焦りが同居していた。日が沈む頃には皆家に帰り、戸締りを欠かさないようにした。
「困ったね。ここまで警戒されると私たちも迂闊に近づけないよ。特に私は警戒されてるだろうし」
「まだ、殺すつもりなのか……関係も無い、罪も無い人ばかりを」
「雪や静ちゃんにだって罪は無かった……当たり前だよ。言ったでしょう? 私は村を滅ぼすんだって」
鶴のの表情に曇りは無かった。彼女は人を殺す事を、演出としか考えていない。
彼女は、壊れてしまった。だが、そのきっかけを作ったのは俺の祖父。
「……賢は、私を裏切ったりしないよね」
逆らえない。単純な罪悪感だけではない、彼女に逆らえば殺されることを、俺の本能が感じ取っていたからだ。
「けれどどうしようか。私の条件に合いつつ、加えてこの状況下でも簡単に顔を合わせられる人間……」
村人たちの警戒も強まっている。
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