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しばらくすると、気付いた村人たちが家から飛び出してきたが、もう遅い。朝日が昇るころには、畑は全焼していた。
翌朝、私は作場の住む小屋を訪れる。薄汚れてはいるが、造りは頑丈なようだ。
私はその薄汚れた木の戸を叩き、作場に声を掛ける。
「ごめんください」
すると、声が帰ってくる前に戸がゆっくりと開かれる。
そこには車椅子に乗った屍のような、乾ききった老人がこちらを睨み付けている。
「こんちには、作場さん。畑の事は残念でしたね」
「……お前か、鈴音様の名前を騙ってる裏切者の娘ってのは」
村人と関わりのない作場でさえ、私の事は知っているらしい。
村の裏切者。更には鈴音様を冒涜する不届きものというところだろうか。
「騙るなど、私は鈴音様の御意思を代弁する役割を与えられたのです。この骨人形がその証」
作場は人形を見てぎょっとした表情をした。特にこの世代の人間は鈴音様と、骨人形をまじかで見たはず。その時の光景が思い浮かんだのかもしれない。
「……何の用だ。鈴音様の使いが、おいぼれの不幸を笑いにでも来たか」
「まさか。あなたをこの村から救いに来たのです」
作場は冷静だった。畑が失われ、事実上、自らの食い扶持を失ったというのに。
落ち着きと言うか、それは諦めに近いものなのかもしれないが。
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