第六話 『第四の悲劇 達磨』

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 しばらくすると、気付いた村人たちが家から飛び出してきたが、もう遅い。朝日が昇るころには、畑は全焼していた。  翌朝、私は作場の住む小屋を訪れる。薄汚れてはいるが、造りは頑丈なようだ。  私はその薄汚れた木の戸を叩き、作場に声を掛ける。 「ごめんください」  すると、声が帰ってくる前に戸がゆっくりと開かれる。  そこには車椅子に乗った屍のような、乾ききった老人がこちらを睨み付けている。 「こんちには、作場さん。畑の事は残念でしたね」 「……お前か、鈴音様の名前を騙ってる裏切者の娘ってのは」  村人と関わりのない作場でさえ、私の事は知っているらしい。  村の裏切者。更には鈴音様を冒涜する不届きものというところだろうか。 「騙るなど、私は鈴音様の御意思を代弁する役割を与えられたのです。この骨人形がその証」  作場は人形を見てぎょっとした表情をした。特にこの世代の人間は鈴音様と、骨人形をまじかで見たはず。その時の光景が思い浮かんだのかもしれない。 「……何の用だ。鈴音様の使いが、おいぼれの不幸を笑いにでも来たか」 「まさか。あなたをこの村から救いに来たのです」  作場は冷静だった。畑が失われ、事実上、自らの食い扶持を失ったというのに。  落ち着きと言うか、それは諦めに近いものなのかもしれないが。     
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