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「この村では、作場さん。あなたのような傷痍軍人を追い出すための計画が水面下で進められているのです。畑の件もその計画の一環。あなたという厄介者を追い出すため、農家までもが暗躍して引き起こした茶番なのです」
作場の表情が大きく変わることは無かった。その表情はそれを既に予測していたような、落ち着いた表情だった。
「それだけの犠牲を払ってでもあなたを村から追い出したいのです。失礼な言い方ですが……仕事も満足もできないあなたをこの貧しい村に今後も置いていく事の方がよっぽど大きな犠牲を生むことになる。傷痍軍人など刹那の英雄。時が過ぎれば英雄からただの厄介者へとなり下がる」
「そうか……とうとう、俺はそこまでに成り下がったんだな。惨めなもんだ」
自嘲気味に笑う作場。この男にはもう、この村で普通に暮らそうなどと言う考えは無い。
ただ、与えられた運命に従うのみという心構えだった。
「畑を失ったあなたはとうとう食い扶持すらも失った。しかし、鈴音様はあなたに同情されています。身を粉にしながら戦争に身を投じたあなたが、なぜこんな扱いを受けねばならないのかと」
私は言葉を続けるが、作場の感情に起伏は無かった。
「今では作場さん自身を殺してしまおうと主張する恥知らずな輩もいます。けれど、鈴音様はそれを良しとはしません。村と国を背負い、戦ってきた英雄を救えと、私に命じられたのです」
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