第六話 『第四の悲劇 達磨』

4/11
前へ
/119ページ
次へ
「もう、いいんだ。俺はもう疲れた。今更になって生き永らえようなんて思わねぇよ。畑が燃えたのだって、あんたの言うそれが事実かは別として、きっと運命なんだ。俺はもう……この戦争の終わった世の中にはいないほうがいい人間なんだってな」  この男の心は、摩耗しきっていた。憎しみだとか悲しみに浸かり過ぎた心はとうに破たんしていた。  この男も、鈴音村に壊された被害者の一人なのだ。 「それもあなたの自由です。残された時間を、ゆっくりと味わいながら死に逝くのも良いでしょう。けれど、一つ鈴音様からではなく、私から提案があります」  だが、その命を決して粗末にはさせない。  どうせ果てるのなら、その命、私の復讐の一環として使わさせてもらう。 「最後に、この村を見返してやりませんか?」  その時、作場の濁りきった目に一瞬だけ光が戻ったような気がした。 「具体的にはどうするつもりだ? お前のような小娘に何かができるとは思えんが」  作場は村への復讐に興味を持っていた。溜まりに溜まった鬱憤を晴らしてからこの世を去ることも悪くは無いのではないかという私の誘いに、作場は乗ったのだ。  これ以上、何も失う者も無い哀れな老人の、最後の願いだった。 「それは作場さんだって同じです。一人じゃ何も出来なくても、二人なら出来ることもある」 「だから、それはなんなんだ」  私はこの老人を騙している。この男は復讐のための道具にしか過ぎない。     
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加