第六話 『第四の悲劇 達磨』

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 その瞬間が、私が最初で最後に見た作場の笑顔だったのかもしれない。  私はその笑顔を見ていると、何だが気持ちが揺らいでしまいそうで、振り返る前に作場の小屋に厳重な鍵をかけ、作場の唯一の足である車椅子を抱えて歩き出した。  そう、私は小屋と言う牢獄に作場を閉じ込めたのだ。  それから五日、私は作場の家には戻らなかった。  あまり放置し過ぎて死なれるのも困るが、身体的にも精神的にも作場を追い込む必要性があった。『誤催眠』は相手が消耗しているほど、効果が表れやすい。  五日ぶりに小屋の前に立つ。物音はしない。  死んでいる可能性もあったが、私は作場が生きていることを信じて戸を開けた。 「お久しぶりです作場さん」  玄関のすぐ近くに作場は俯けで倒れていた。下半身不随の老人は、必死に床を這いつくばって出口を求めたのだろう。  しかし、出口は私がしっかりと施錠した。とても開けられるような状態では無かっただろう。作場はこの五日間、水も食料も無い中でこの牢獄に閉じ込められていたのだ。 「……随分と、遅い……帰りじゃねえか」  作場の顔色は明らかに悪かった。しかし、身体も精神も摩耗している割には軽口を叩けるくらいの余裕はあるようだ。     
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