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だが見れば分かる。この老人は既に死の一歩手前にいる状態だ。
「申し訳ありません、この貧しい村ですので食料の確保も一苦労なのです。あなたもよくご存じでしょう」
私の笑えない冗談を、作場は笑った。
何故、こんな状況でも笑えるのだろう。怒るのではなく、笑えるのだ。
「……笑う以外、何か感情は無いのですか」
私は不思議を通り越して、作場に恐怖を抱いた。泣くわけでも喚くわけでもなく、ただ笑っている。
「全部、嘘だったんだろ……お前の話」
「なら、なぜ怒らないのですか……?」
「もう、これから死ぬってのに……最後の最後まで怒ってたってしょうがないだろ」
理由はたったそれだけだった。この男にとって、死は救いのようなものなのかもしれない。この鈴音村の呪縛から逃れるための。
「確かに、私の話は嘘でした。けれど、全てじゃない。この村に復讐をする……これだけは本当です。そして、その過程であなたの無念を晴らすと約束したことも、嘘ではありません」
「……そうか」
作場は驚きもせず、頷く。
「正確に言えば、あなたの死が私の計画の一部なのです。あなたの死が無駄になることは決してないと、約束します。あなたには、確かめる術はないでしょうが」
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