38人が本棚に入れています
本棚に追加
「……信じるさ、あんたの復讐になら……こんな命、くれてやるよ」
この男は鈴音村の最後の良心だったのかもしれない。村のために戦い、最後も静かに息を引き取ろうとしている。
だが、私はこの男の命を活かす。村にこの男の魂を知らしめてやるのだ。
「それより、何か食い物は無いか。流石に餓死ってのは格好がつかねぇ。どうせ死ぬにしろ、最後くらいはとびきり美味い物を食いてぇんだ」
男にとって、最後の晩餐だった。ならば、私が叶えてやろう。この『誤催眠』でこの男の最期の願いを。
「食料なら、貴方の目の前にありますよ。極上の肉の塊が四本も」
作場と私の視線が交わる。作場は一瞬、表情を崩したが、再び明るい表紙を取り戻す。『誤催眠』は問題なく彼を蝕んだ。
「おお……こりゃすげぇ……何の肉だ、豚でも鳥でもなさそうだが」
作場は自身の四肢を見て、獣の様に涎を垂らしている。
「さぁ……秘密です。けれど、極上の肉です」
私は作場が完全に誤催眠の術中にはまっていることを確信し、鉈を作場の前に置く。
「上半身は動かせると聞きました、自分で肉を切り開くのも食事の醍醐味ですよ」
「………ああ、そうだな」
鉈を手に取り、作場は躊躇いなく自らの腕にそれを振り下ろした。
骨が砕け、血が飛び散る。そして、皮膚の裂け目からは深紅の美しい肉が見えた。
最初のコメントを投稿しよう!