第六話 『第四の悲劇 達磨』

8/11
前へ
/119ページ
次へ
「……信じるさ、あんたの復讐になら……こんな命、くれてやるよ」  この男は鈴音村の最後の良心だったのかもしれない。村のために戦い、最後も静かに息を引き取ろうとしている。  だが、私はこの男の命を活かす。村にこの男の魂を知らしめてやるのだ。 「それより、何か食い物は無いか。流石に餓死ってのは格好がつかねぇ。どうせ死ぬにしろ、最後くらいはとびきり美味い物を食いてぇんだ」  男にとって、最後の晩餐だった。ならば、私が叶えてやろう。この『誤催眠』でこの男の最期の願いを。 「食料なら、貴方の目の前にありますよ。極上の肉の塊が四本も」  作場と私の視線が交わる。作場は一瞬、表情を崩したが、再び明るい表紙を取り戻す。『誤催眠』は問題なく彼を蝕んだ。 「おお……こりゃすげぇ……何の肉だ、豚でも鳥でもなさそうだが」  作場は自身の四肢を見て、獣の様に涎を垂らしている。 「さぁ……秘密です。けれど、極上の肉です」  私は作場が完全に誤催眠の術中にはまっていることを確信し、鉈を作場の前に置く。 「上半身は動かせると聞きました、自分で肉を切り開くのも食事の醍醐味ですよ」 「………ああ、そうだな」  鉈を手に取り、作場は躊躇いなく自らの腕にそれを振り下ろした。  骨が砕け、血が飛び散る。そして、皮膚の裂け目からは深紅の美しい肉が見えた。     
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加