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「その皮の下にはどんな楽園が広がっているのでしょう。皮に歯を立てれば甘い肉汁が口いっぱいに広がり、その奥には更に濃厚な脂が詰まっていて……」
今の作場は自身の血肉が、極上の御馳走だと錯覚している。
「ああ……こんな、こんな綺麗な食べ物がこの世にはあったんだなぁ……こんな」
作場は涙を目に溜めながら、濡れた声で言った。
彼は知らない。その肉が、自らの肉である事を。
そして、これから自らの血肉を自ら食するという残酷な現実も。
「待ちきれないでしょう? いいのですよ、もう何も我慢する必要はありません。さぁ、遠慮などいりません、好きなように貪りなさい」
私の合図とともに、作場は獣の様に自らの腕に齧り付いた。
痛みなど感じてはいない。ただ、その圧倒的な美味に、死にかけの老人とは思えないほど激しい食べっぷりだった。
「最後に……あなたに出会えて良かった」
私は作場に背を向け、そう呟く。
作場にはもう私の声など聞こえてはいない。だが、私はそう言わなければいけない気がしたのだ。
この村の、最後の良心であった彼に。
作場の発見は今までの事件と比べて発覚は遅かった。作場自身が人との関わりを避け、村のはずれを住処に選んだことが影響したのだ。
籠った小屋の中は、酷い状態だったという。腐りかけの死体が一体、発見された。
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