籠の鳥

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小島の小国に絶世の乙女がいる噂が 人外にも轟いていると知る者なし。 姫君には秘めた想いがあった。 大層退屈で窮屈な暮らしに、 飽き飽きしていた。 姫と言う名の籠の鳥。 この城には、子は私だけだ。 男性しか王位継承権がない。 婿を迎え、一生城の中である。 個人の成長など望まれず、 世継ぎを産む事だけ期待される。 国の贄になる為に存在が許されている 気がしてならない。 誰か攫ってくれないかしら? そんな事を胸に空を仰ぐ。 独りで外に出れるのは、 自室のバルコニーのみ。 私の世界はこんなにも 狭いと思い知らされる。 羽根があったら、ここから飛び立てるのにと、自由に飛び回る鳥を恨めしく眺める。 なんで兄弟がいないのか? 世継ぎさえ居たら、私は異国へ嫁げたものを! そんな願いが天へ届いたか如く現れた影。 闇夜に塗れて音もなく 舞い降りた闇そのもの。 私の脳裏を震わすテノールの声 「汝・我を求めるか?」 「誰なの?」 辺りを見渡しても闇。 人の気配なき深夜の寝室。 声の主は一方的に語り出す。 「我の眷属にしてやろう」 重厚なテノールが脳裏に響きに、 うっとりしそうになる。 直感で耳からの調べではない。 不思議と恐怖心はない。 一生城の中より怖い未来はない。 「城から出してくれるなら、 何にだってなるわ」 目を輝かせ、胸躍らせて即答した。 「月満ちる時迎えに来よう」 そう言い捨てた切りもう聞こえてこない。 今宵は、新月深き闇が明けた時 全てが夢だったかもと思えてきた。 頭の中に声が聴こえるって、 何かの病かと疑ってしまう。 ただ眷属とは? 気になる単語を知る為さり気なく、 メイド長に聞いてみる。 「珍しく読書でもされましたか?」 不審そうに様子を伺う様な言い方。 内心馬鹿にされてると感じつつも、 笑顔でやり過ごす。 「読んだけど、いまいち分からなくて!」 無知な仮面を被り探る。 「眷属とは、吸血鬼がよく使いますが あくまでも本の中でですが!」 夢見がちの少女を諭す様に、 淡々と答えて去って行く。 私が知恵を得る事を望まない。 私は、世継ぎを産む道具。 御飾りの王妃としての価値しかないのだ。 毎夜バルコニーから満ちゆく月を愛でる日々。
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