囚われの鳥

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月が半分満ちた夜招かざる客が 音もなく舞い降りた。 「其方がこの城の姫君か?」 蒼き髪と深紅の瞳水牛の角に 似たものが頭から生えている。 声も発する暇なく、私の身体は宙を舞う。 黒き翼に抱かれ、頼りない月光が見えた気がする。 驚きはしたが、内心今じゃないと舌打ちする。 城から出てるなら、吸血鬼と悪魔なんて大差ない。 ただ甘美な響きの声が忘れられない。 一眼お姿をみたいという 好奇心が今は勝るだけだ。 最悪のタイミングで現れる方が悪いのだ。 あまり行き届いてない洋館。 最低限のメイドとコックいるだけの質素な生活。 刻々と月が満ちて行く中私は焦っていた。 このままじゃ声の主に逢えない。 城よりましだけど、今は不本意ながら城に帰りたいと祈る。 悪魔の気まぐれに付き合ってる暇はないのだ。 そんな心理状況で、不機嫌全開となる。 それを察してくれない悪魔に更なる苛立つ。 悪魔見るなり、必死に泣き叫ぶ真似を続ける。 悪魔相手に涙が通用するか、 定かではないが私の武器は涙だけ。 「お城に帰りたい」 声が枯れるまで大声で泣き叫び、 一生分の涙と引き換えにしても、 城に帰ると決めた。 自分で決断する事自体初めてで、嬉し過ぎて泣けた。 追い出されたら何とかなる。 伊達に姫してるわけじゃない。 私の知名度は国内一と自負している。 人にさえ会えたら、必ず保護される。 噂とは当てにならぬな。 絶世の乙女がいるというから、 飾り映えするかと攫ってみたが、 とんでもない阿婆擦れで、 品も無く喧しいだけの女。 何処から出てるか疑わしい 高音で高圧的に泣き叫ばれ、 不本意ではあるが降参だ。 静かな時を掻き乱されるのは、耐え難い。 「もう城に帰るがいい」 悔しそうに吐き捨てる悪魔。 まだ満月まで魔がありそうだ。 内心ウキウキしてるのが表情を緩めていく。 「ありがとう」 満面の笑顔でドレスの端を持ち 深々と一礼する姫。 阿婆擦れ女が、姫に見えた瞬間 その笑顔が悪魔の脳裏に烙印された。
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