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要は言わないけど、多分人混みは好きじゃないだろうことは分かる。それでも一緒に歩いてくれる。
街中で眠ってしまった私を、家まで連れて帰ってくれたことは数知れず。
それがどんなに大変か、想像に難くないが、要が外を出歩くなと私に言うことはない。
私が自由に人生を送れるよう助けることが、彼の仕事だから。
「眠るだけの仕事って、私にぴったりじゃない?
それに睡眠科学研究室ってことは、私の体質をどうにかする方法とかも研究できたりしないかなぁ」
サンドイッチをかじりながら、募集チラシを見ていると、要が急に立ち上がった。
いつも黒っぽい服装の要は、今日も下は黒のデニム、上はグレーのシャツに黒のジャケットを羽織っていた。
その腕が私を引き寄せて広い胸に囲うと、数秒後、車の急ブレーキの音と、爆発でも起こったのかと思うような大きな音がした。
はっと振り返ると、店のオープンスペースの半分をなぎ倒すようにして車が二台突っ込んでいた。
赤い車は、後ろから白い車に押し潰されて、前方は街灯の支柱にぶつかってボンネットが歪んでいる。
私たちのいる場所から、車一台分も離れていなかった。
「優香、平気?少し、ここで待ってて」
要はそう言うと、赤い車の運転席の方へ近付いて行き、中を覗きこんだ。
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