前編

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 (かなめ)は言わないけど、多分人混みは好きじゃないだろうことは分かる。それでも一緒に歩いてくれる。  街中で眠ってしまった私を、家まで連れて帰ってくれたことは数知れず。  それがどんなに大変か、想像に難くないが、要が外を出歩くなと私に言うことはない。  私が自由に人生を送れるよう助けることが、彼の仕事だから。 「眠るだけの仕事って、私にぴったりじゃない?  それに睡眠科学研究室ってことは、私の体質をどうにかする方法とかも研究できたりしないかなぁ」  サンドイッチをかじりながら、募集チラシを見ていると、要が急に立ち上がった。  いつも黒っぽい服装の要は、今日も下は黒のデニム、上はグレーのシャツに黒のジャケットを羽織っていた。  その腕が私を引き寄せて広い胸に囲うと、数秒後、車の急ブレーキの音と、爆発でも起こったのかと思うような大きな音がした。  はっと振り返ると、店のオープンスペースの半分をなぎ倒すようにして車が二台突っ込んでいた。  赤い車は、後ろから白い車に押し潰されて、前方は街灯の支柱にぶつかってボンネットが歪んでいる。  私たちのいる場所から、車一台分も離れていなかった。 「優香、平気?少し、ここで待ってて」  要はそう言うと、赤い車の運転席の方へ近付いて行き、中を覗きこんだ。     
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