さよならはいらない

5/5
前へ
/5ページ
次へ
でも (そんなもの、必要ないんだよ) 現に女性は、巣立ちの時にその言葉を交わしはしなかった。いつものように、友と別れたのだ。また次の日も普通に顔を合わせるというかのように。 それは信じていたから。再会の約束を交わさずとも、また再び巡り合える筈だと。そんなものに縋るぐらいの絆なら、初めから持たないというのが彼女の信条だった。それ故彼女が友と築いた絆は、周囲の誰もが羨むほどに強固なものだった。 あの巣立ちの時から、友とは一度も会ってはいない。だけども彼女は信じていた。友との間にあるそれの強さを。 ――不意に強い風が吹き抜けた。薄紅の多くは、青く高いステージへと舞いあがっていく。どこまでもどこまでも、高く澄み渡る空へと 目も開けられないような風の中、女性の耳に声が届いた。 「久しぶり!」 ……あぁ、なんて。なんて懐かしい声だろうか。薄く目を開くと、淡い桜が舞う中にひどく懐かしい姿があった。 「あぁ……、久しぶり!」 再会の約束なんていらない。さよならなんて言葉は必要ない。強い絆はいつだって、私たちを巡り合わせるのだから。 【END】
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加