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でも
(そんなもの、必要ないんだよ)
現に女性は、巣立ちの時にその言葉を交わしはしなかった。いつものように、友と別れたのだ。また次の日も普通に顔を合わせるというかのように。
それは信じていたから。再会の約束を交わさずとも、また再び巡り合える筈だと。そんなものに縋るぐらいの絆なら、初めから持たないというのが彼女の信条だった。それ故彼女が友と築いた絆は、周囲の誰もが羨むほどに強固なものだった。
あの巣立ちの時から、友とは一度も会ってはいない。だけども彼女は信じていた。友との間にあるそれの強さを。
――不意に強い風が吹き抜けた。薄紅の多くは、青く高いステージへと舞いあがっていく。どこまでもどこまでも、高く澄み渡る空へと
目も開けられないような風の中、女性の耳に声が届いた。
「久しぶり!」
……あぁ、なんて。なんて懐かしい声だろうか。薄く目を開くと、淡い桜が舞う中にひどく懐かしい姿があった。
「あぁ……、久しぶり!」
再会の約束なんていらない。さよならなんて言葉は必要ない。強い絆はいつだって、私たちを巡り合わせるのだから。
【END】
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