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――さよならなんて言葉は、必要ない。
風が吹く。長い冬を終える頃、ようやく吹き始めた南の女神の吐息。
その吐息に唆されるように、薄紅の衣の踊り子たちは次々に蒼天の舞台へと昇る準備をしていた。
「――春、か」
黒く長い髪を掻き上げながら、その女性は踊り子たちで賑わう一際高い木を見上げた。
三月の、寒さも和らいでくるそんな頃。学徒たちで賑わうこの場所で、最高学年の生徒たちが巣立ちの時を迎えていた。
誰しもが通るであろう巣立ちの日。学徒たちは互いの巣立ちを喜び合い、そして別れに涙していた。
「私たち、離れてもずーっと友達だからね!?」
「そんなの当たり前じゃないの!」
「おーい!この間の約束、忘れんじゃねえぞ!?ぜってぇ叶えろよ!」
「お前にばっか、いい顔させてられっかってんだ!」
「またいつか、会おう!」
「あぁ…元気でな!」
思い思いの言葉を告げ、一人、また一人とそれぞれの道へと歩いていく。
やがて誰もいなくなったその場所には、ただ静寂があるだけだ。
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