さよならはいらない

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「……いいねぇ、若いって」 女性は天へと伸びる大樹に寄りかかり、静寂だけが残るその場所を見つめた。 別れを悲しむだけじゃない。自分たちの夢への希望を残した静寂はどことなく温かく擽ったい。それは優しく心を包み込み、芯へと清く染み渡っていく。 かつての自分も、きっとこんな感じだったのだろうなと思う。友との別れを惜しみ、だけど自分の夢へと向かって真っ直ぐに歩いたのだろう。女性は学び舎なるものから巣立って久しいが、何時如何なる時もこの様子だけは変わらない。ある意味で不変のものと言って良いのだろう。 「人は移ろい、変わっていくものだからなぁ……」 思わず口をついて出た言葉に、女性は思わず苦笑してしまった。あの頃のような純粋さは、今はもう持ち合わせてはいない。それが成長というのかどうかは分からないが、明らかに変わっているのは間違いないだろう。 「私の場合、ちょっと変わり過ぎたかもなぁ」 昔はこんな風じゃなかったんだけど。と、誰に言うでもなく一人心の中で呟く。昔はもう少し可愛げがあったような気がするし、こんなに燻ぶってもいなかった。
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