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短編
私は子供の頃の記憶がない。
なぜないのか、何を忘れているのかは誰に聞いてもわからないままだった。
それでも私は幸せだ。
だって大切な家族がいつでも側にいてくれるから……。
ピピピピピピピピピピッ
何度目かの目覚ましの音が鳴り響いく中、私はうぅぅ……と唸り声をあげると、音を遮断するように布団の中へ潜り込んだ。
煩わしい音にしかめっ面で蹲っていると、部屋の扉がバンッと開く音が耳に届いた。
「もうそろそろ起きなさい!学校に遅刻しちゃうわよ!」
私は怒りが混じったその声にビクッと反応すると、眠い目を擦りながらも布団から顔をだした。
寝ぼけ眼でそっと顔を上げると、自然と大きな欠伸が出る。
「ふぁぁ……おはよう」
まだ完全に目覚めていない私は、ぼうっとしながら薄っすらと瞼を持ち上げた。
「もう、まったく!!!」
声の主は私が潜っていた布団を勢いよく剥ぎ取ると、冷たい空気が私を包み込んむ。
さむぃ……、死ぬ死ぬ……。
私は寒さにガタガタと震えながらゆっくりと体を起こすと、徐に背筋を伸ばす。
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