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「お前……死ぬ覚悟はできてんだろうな……」
低くドスの聞いた声に、私はビクッと大きく肩を跳ねさせる。
恐々顔を上げると、そこには今まで一度も見たことがない、怒りの表情を浮かべたお兄ちゃんが立っていた。
投げられた男は慌てて逃げようと体を動かすが……そこにお兄ちゃんの鋭い蹴りが男の腹へと入った。
グフゥ……とくぐもった呻き声を上げた男は、その場に倒れ込んでいく。
お兄ちゃんは私と目があうと、焦った様子で私を抱き抱え、自分が羽織っていたブレザーを私の肩へとかけた。
「大丈夫か……いや……大丈夫じゃないよな……。帰ってくるのが遅くなってごめん……」
いつものオネェ言葉ではない、男らしい言葉に私はじっとお兄ちゃんを見上げると、一滴の涙がこぼれ落ちる。
「おに……としあき君」
敏明君と呼ばれたお兄ちゃんは大きく目を見開くと、徐々に顔を歪めていく。
「……あなた思いだしちゃったの……?」
私はゆっくりと首を縦に振ると、小さな声でごめんなさい、ごめんなさいと何度も謝った。
そんな私の様子に彼は何も言わず、ただただ私の背中を撫でていた。
その後、警察を呼び、男は無事取り押さえられた。
事件を聞きつけた両親は旅行をキャンセルし急いで家に戻ってきてくれた。
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