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10時丁度。集合場所に到着して万全の態勢で臨んだわたしは、東口をウロウロする鳩をひたすら数えて気持ちを落ち着かせようとしていた。
入部して早3ヶ月、竹内先輩と話したことはほとんどない。練習で教えてくれるのは面倒見の良い美月先輩で、竹内先輩は黙々と自分の譜面と向き合っていた。
一度、まだ入部したての頃に、トラウマといって差し支えないくらい怖いことがあった。
合奏練習でわたしが吹くところを間違えたとき、隣に座る彼の肩がピクリと震えた。そのときは何もなかったが、休憩中ヒヤヒヤしながら問題の小節を練習していると
「間違えるならそこ吹かなくていい」
あと、小節番号振っといたら
先輩は背後からわたしの楽譜を覗き込み、そう付け加えて立ち去った。
まちがえるなら そこふかなくていい
彼が放った言葉の弾丸は、のんびりと日々の練習をこなし、そこそこに生きていたわたしの脳天を正確に撃ち抜いた。
ー河崎の中で スナイパー竹内先輩が 誕生した瞬間だった
田口トモロヲのナレーションを入れて誤魔化そうにもあまりに大きな衝撃。翌日の部活は本当に行きたくなくて、先輩に会うのが怖かったし、また何を言われるのだろうかと想像を巡らすたびに、内臓がよじれる思いだった。授業中に何度も休む言い訳を考えたけれど、ここで休んだら一生行けない、とわたしの中で誰かが囁いた。だから、決死の思いで部活へ行ったのだ。
あのときと比べたら、一緒に買い物に行くくらい全然マシ!
そう言い聞かせ、こぶしをきつく結んだ。わたしの周りにいた数羽の鳩が、パン屑かなにか持っているのではないかと、その握りこぶしを期待の眼差しで見つめていた。
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